京都創作研究所

マンガやアニメなどの感想を中心に、情報発信していきます 2014年11月30日終了予定

かぐや姫の物語のすすめ 5 物語の構造

現在公開されている「かぐや姫の物語」の動員数がおもわしくなく、かつ周りの人から聞く評価も悪いように思います。せっかく、千円以上のお金を払って見るのに、「まあまあ、おもしろかった(月並)」では勿体ないと思います。

なので、見に行ったけど、いまいちよくわからなった人や見ようかどうか迷っている人に対して、「どうやって見るか」という視点で少し語ってみました。

 

 

 

これ以降感想に入ります(ネタばれ注意)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回はネタばれを含めた総評行い、「どうやってかぐや姫の物語を見るか」考えようと思います。

 

方針

以上の視点から見ていきます。下に行くほど映画を見ないと知りえない情報(ネタばれ)が増えていきます。

前回までは許容されるレベルのネタばれでしたが、今回以降は映画の内容に沿ってまとめているので、見ていない人は自己責任でお願いします。

すでに見た人向けに書いています。今後、見る予定のある人は特に注意してください。 

 

 

 

 

 

物語構成

プロップの昔話31の機能分類

かぐや姫の物語のすすめ 3 ストーリーの考察 - 京都創作研究所

の記事で述べたように、

ウラジーミル・プロップ - Wikipedia

の昔話31の機能分類を用いて分析する。この 機能分類を簡単に説明すると「昔話を分析すると共通する構成要素によって成り立つ」という理論(仮説)です。多くの物語は「日常で生活する主人公が異世界に越境し、挫折と成長を経て、日常の世界に帰還する」共通点が指摘されています。

具体的な構成要素は以下の通りです。(あとで、一つ一つ解説しますので軽く目を通すだけで結構です。)

 

1:「留守もしくは閉じ込め」
2:「禁止」
3:「違反」
4:「捜索」
5:「密告」
6:「謀略」
7:「黙認」 
8:「加害または欠如」
9:「調停」
10:「主人公の同意」
11:「主人公の出発」
12:「魔法の授与者に試される主人公(贈与者の第一機能)」
13:「主人公の反応」
14:「魔法の手段の提供・獲得」
15:「主人公の移動」
16:「主人公と敵対者の闘争もしくは難題」
17:「狙われる主人公」
18:「敵対者に対する勝利」
19:「発端の不幸または欠如の解消」
20:「主人公の帰還」
21:「追跡される主人公」
22:「主人公の救出」
23:「主人公が身分を隠して家に戻る」
24:「偽主人公の主張」
25:「主人公に難題が出される」
26:「難題の実行」
27:「主人公が再確認される」
28:「偽主人公または敵対者の仮面がはがれる」
29:「主人公の新たな変身」
30:「敵対者の処罰」
31:「結婚(もしくは即位のみ)」

 

多くの昔話ではこのように共通した構造をもちます。結構、多くの分類があることに驚かれるでしょう。学校の物語の構成レベルでは「起承転結」しか教わらなかったので私も最初は驚きました。ただ、31種類も存在していますが、2時間映画では結構普通に詰め込むことができます。

 

物語の構造

それぞれのフェーズで色分けを行ったが、その意味は以下の通りである

  • 従来の竹取物語でも描かれている部分
  • 高畑監督の「かぐや姫の物語」で描かれている部分
  • 想像に任せている部分

この色分けにも注意しながら分析を行った。

 

かぐや姫の物語は

11:「主人公の出発」

からはじまる。月の世界のかぐや姫が地球に降ろされる。

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12:「魔法の授与者に試される主人公(贈与者の第一機能)」

本来なら地球に降りた主人公が魔法を手にするべきであるが、月の住人である主人公が魔法を失うことによる変化が起こる。

具体的に魔法を持つ月の住人が、地球を生きるための体(赤子)になる。贈与者というのは自然であり、育てる翁と媼でもある。

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13:「主人公の反応」

子ども時代に成長する主人公。

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14:「魔法の手段の提供・獲得」

自然と背することにより、地球を生きるための手段(丈夫な体と大地を愛する心)を手にする。

 

15:「主人公の移動」

都に移動して高貴な姫として育てられる

 

16:「主人公と敵対者の闘争もしくは難題」

本当は自然と共に生きたいのに「高貴な姫」に矯正される。

 

17:「狙われる主人公」

かぐや姫の名前が世に広がり、様々な男たちから注目を受ける

 

18:「敵対者に対する勝利」

この敵対者は難しく、男性を敵対者とするなら宴で認められたことが勝利といえる。


19:「発端の不幸または欠如の解消」

しかし、本当に「高貴な姫」ではなく所詮金で買った、本物ではない姫という男たちの主張によって、かぐや姫の心が揺れ動く。

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20:「主人公の帰還」

”たけのこ”として過ごした野山をさまよった後、宴の席に帰還する。


21:「追跡される主人公」

本来なら、敵に追いかけられるのが一般的だが、外の男たちの注目によって閉じ込められたり、自ら高貴な姫としての責務を全うする自制の心でもある。

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22:「主人公の救出」

主人公を救ってくれたのは媼の村の小屋を模した庭である。


23:「主人公が身分を隠して家に戻る」

本来は高貴な姫として生きる決意をした主人公が、庭で自然と接する。いつの間にか”たけのこ”が隠すべき身分になった。


24:「偽主人公の主張」

この偽主人公はだれかというのが難しいいが、おそらく”たけのこ”としての自分とかぐや姫の自分との葛藤といえる(潜在的には月の住民としての自分も混ざっている)。


25:「主人公に難題が出される」

高貴な身分の皇子、大臣達が求婚するために屋敷にやってくる。このシーンでは主人公が高貴な身分の方々に難題を出しているが、本質的にはかぐや姫が人とは何か、偽りのない本物の人とは何か考えていた。

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26:「難題の実行」

かぐや姫は、高貴な方々が示した難題の回答を一つずつ破っていく。


27:「主人公が再確認される」

高貴な方々を追い出したかぐや姫はお忍びで村の方角に向かう。そこで、着物を着たまま走りまわり、もう一度自然を愛する”たけのこ”に回帰する。

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28:「偽主人公または敵対者の仮面がはがれる」

御門が登場し、かぐや姫に動揺を与える。


29:「主人公の新たな変身」

かぐや姫は月の住民であることを思い出し、月に帰ることを翁と 媼に打ち明ける。

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そして、過去の事実が打ち明けられる。これこそが冒頭に省略された1~10のフェーズである。

 

1:「留守もしくは閉じ込め」

月の閉鎖された空間で悩みや苦しみ(楽しみや嬉しさ)のない世界を生きるかぐや姫。


2:「禁止」

月の世界では感情を持つことが悪であり、地球に住むことは穢れであり、罪人が送られる場所である。


3:「違反」

昔地球に降ろされた女性の天女の歌を聴き、「地球に対する憧れ」を抱く。


4:「捜索」
5:「密告」
6:「謀略」
7:「黙認」 
8:「加害または欠如」
9:「調停」

この辺りは明確に描かれていないが、様々な人を巻き込んで地球に憧れるかぐや姫が見つかって裁かれたのだろう。

 

10:「主人公の同意」

そして、憧れた地球に降りる決意をするかぐや姫の姿は容易に想像がつく。

 


30:「敵対者の処罰」

この敵対者は男性であり、武装する兵士でもある。彼らは無力な存在として描かれる。


31:「結婚(もしくは即位のみ)」

最後、かぐや姫は地球の記憶を忘れ、月の住民として元の世界に帰還する。

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高畑監督が補完したもの

注目してほしいのが、オリジナルの11フェーズに印象の残るシーンを配置している。にもかかわらず、物語の本筋から離れずにしっかりと物語が再構成されている。

また、冒頭の4~10フェーズは直接描かれていないが、かぐや姫が罪を犯して罰を受ける部分を明確に示した。

高畑監督の「かぐや姫の物語」は昔話として未完成の竹取物語を完成形に近づけた。1000年を超えて様々にアレンジされてきた竹取物語の正当な継承作品といっても過言でない。

 

そのうえで、浮き彫りになるのは竹取物語の不完全な部分であり、高畑監督が述べた「きちんと描くことでかぐや姫という一人の女性が理解できる」狙いを達成している。

 

次回は「かぐや姫の物語が目指したこと」など再度細かく物語を分析していこうと思います。